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Sweet dreams,

映画、音楽、好きなものに関するあれこれ

『ノーカントリー(原題No Country For Old Men)』感想ーアメリカの荒涼とした大地とおかっぱ

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アカデミー賞の主要部門をかっさらい、実質その年を代表する映画だったノーカントリー。しかし間違っても「評価高いらしいよ!」と友達と気軽に見る映画ではない。(鑑賞後ウンウン議論したいなら別)実際、私の周りでも、「なんでそんな評価されてるのか分からん」の声の方が多かった。整理する意味でも、以下に感想と解釈をまとめます。ネタバレします。

映画は、麻薬取引の絡んだ金をなりゆきで手にいれたルウェイン(ジョシュ・ブローリン)、彼を追うおっかねえ殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)と麻薬組織の面々、そして両者を追いながらもルウェインを守ろうとするベル保安官(トミー・リー・ジョーンズ)を中心に進みます。

”No Country For Old Man”という原題が示す通り、老いたベル保安官が事件の顛末を見届け、自らの力が全く及ばなかったという苦い思いと共に辞職する所で、映画は終わります。彼が映画のナレーターで、主人公でもあります。

 

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シガーこと、ハビエル・ザ・おかっぱ。アカデミー賞ゲットしたで


ベル保安官は、なんで最後辞職するのか?

映画の主要なキャラクターたちは、大きく3つに分けられます。

◾︎古き良き、たくましいアメリカ人の精神を体現する人々…ルウェイン、ベル保安官
◾︎麻薬取引に代表される、組織犯罪のプレーヤー…メキシコ人、もう一人の殺し屋、それを雇う幹部達
◾︎意味不明の黒づくめの男…シガー 

ぱっと見、ベル保安官は、麻薬取引などの複雑化・凶悪化する犯罪に「もう年寄りの出番ちゃうわ」と諦めを持って退く男に見えますが、そーではない。それ以上に、彼はシガーという男が象徴するものに敗れて去っていきます。
このシガーという男がもたらす厄災、ってのは、別に時代とか関係なく、もっと昔からあった、根源的な脅威、という感じがします。だからシガーの前では、善きアメリカ人だろうが、麻薬組織の犯罪者、別の殺し屋だろうが、「マジわけわからん」まま、なすすべなく死んでいきます。
麻薬組織だって、彼らなりの利害やルールにのっとってビジネスしてる”悪”なわけです。でもシガーにはルール、規範、みたいなものは一切ない。「決めるのはあなたよ」という、自身の決断によって、物事を行う(アメリカ人がすごく重視する価値観でもある)ということも全く解さず、人々を破滅させていきます。

シガーの体現する”悪は”とにかく不条理に死をもたらす、化物みたいなものです。ベル保安官の年老いた叔父がいう、“This country is hard on people.(この国は人に対して残酷だ)” というのは、決して最近の犯罪だけを指しているのではなく、その、昔からアメリカの大地にある残酷さ、不条理な死、というものを示しているのだと思います。

 

ベル保安官の最後の夢

恐怖に対峙し、魂を危険にさらした上で、完全に敗れたベル保安官。まさに祖父も言っていた「やってくるものは、止められない」ことを悟り、辞職します。諦念の中で隠居生活を送るベル。父と祖父から受け継いだものを守ってきたが、自分もやっぱり彼らと同じように敗れた。でも、彼らはこの道の先で待っていてくれる、という趣旨の夢をポツリと語るところで、映画が終わります。

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こういう、誰も助けてくれない、苛酷で荒涼した大地、というのがアメリカ人の心の原風景なんでしょうかね。

 

ファーゴと比べて

ノーカントリー」は、同じように「過大評価」と言われがちなコーエン監督の「ファーゴ」と、どちらのもアメリカという土地の暗部や、気の滅入る犯罪を描いているという所でよく似てます。ただ個人的に「ファーゴ」はいただけなかった。極めてよくできた映画ではあるのだろうけど、次々ぶっ込まれるブラックユーモアがもはや笑えなくて、ただ救いようのなさ、後味の悪さがこたえました。その点、ノーカントリーは全体的に抑制が効いていて見やすいし、緊迫した逃亡劇もスリラーとして楽しめます。出てくる風景もこっちのが美しいし。救いのなさは一緒だけど。善人だからって助からないYO!

完全に余談。ルウェインの妻役で、ケリー・マクドナルドが出てて個人的には嬉しかったけど、アメリカ南部のおじょーさん役似合わなさすぎてびっくり。そういう意図なのか?終盤のシガーとのシーンが良かったですね。